【映像・広告】姉妹校・麻生情報ビジネス専門学校へ出張講義をしてきました。
2012年10月31日 14:22
2012年10月19日(金)、当校姉妹校である福岡県の麻生情報ビジネス専門学校にて、映像編集の特別講義を行いました。ダブルスクールが主体の当校とは異なり、麻生情報ビジネス専門学校は、所属する学生の年齢層も若く、アカデミアで行われる授業とはまた違う雰囲気で行われました。
まず午前中は、学生のみなさんが授業で制作した架空のCMの講評会を行いました。全15作品。
CMとしての表現がうまくいっていない作品も中にはありましたが、それぞれの作品にはオリジナルのアイディアがあり、多くの作品はこちらが想像していた出来を上回るものでした。
講評する側としても判断に迷う作品もいくつかありました。主な判断の基準に、
①架空とはいえCMである以上は「商品の売り」(訴求ポイント)がちゃんと伝わっているかどうか?
②映像作品としての構成はできているか?(起承転結などちゃんと訴求ポイントに落ちているか?)
③面白いか?
という3点があげられます。①のポイントは必須なので迷わないのですが、②③のポイントで迷う作品がいくつかあり、迷うのは「構成はできていないけど面白い」という作品です。仕事目線で見ると構成がぐらついているわけにはいかないので、つい落ちまでうまくまとめたくなるのですが、そうしてしまうと面白みがなくなってしまう。じゃあどうすればより良い作品になるか考えるのですが、そこが一番難しいところです。
実際の仕事の現場でも、編集が組みあがった時に「こういうことでいいんだよね?」とスタッフ同士で確認しあう時がありますが、そういう時は大抵訴求は出来ているけど、あまり面白くないなと皆が感じている時です。
判断が難しいと思いつつも学生のみなさんは答えを求めているので、私ならどうするか、という仕事目線で一つの答えを提示すします。それが本当に最良の案であったかどうかについては、講評後も非常に考えさせられ、私自身にとっても非常に勉強にもなりました。また機会があればみなさんの作品を見させていただきたいと思います。
午後は編集ソフト「プレミア」を使ってアクションシーンの編集実習を行い、短い時間の中で何とか完成させるという、長いようであっという間の特別講義だったと思います。
麻生情報ビジネス専門学校のみなさんお疲れ様でした。
映像・広告クリエイター科講師 川村達哉
【映像・広告】カンヌライオンズ2012報告会 その5
2012年10月31日 14:00
最後の報告は、カンヌの目玉とも言える、「Titanium and Integrated Lions」。このジャンルでは日本人ははじめての審査員。その方は、川村さんの同僚でもある、PARTYの原野守弘さん。
「PARTY」はカンヌのアジアでのフェスティバルである「Spikes Asia」にて「The Independent Agency of the Year」に選ばれました。
原野さんは、電通に入っていったん電通を辞め、また電通に入りADKと電通の合弁クリエイティブエージェンシー「ドリル」を立ち上げ、その後「PARTY」を設立されました。
原野さんからは短い時間でしたがエキサイティングなキャンペーンのお話をたくさんしていただきました。
この「Titanium」という部門が出来たのが2005年。その時の審査委員長がダン・ワイデンさん。ワイデン&ケネディの社長です。審査委員長を引き受ける代わりに、最も斬新なクリエイティビティを評価するチタニウム部門を作って欲しいと言って、事務局を説得したそうです。
その後2007年に現在の「Titanium and Integrated Lions」となりました。
ユニクロのブログパーツ「ユニクロック」が受賞したことを記憶されている方も多いでしょう。
ここで語られていた言葉が
「game changing idea」
というものでした。どういう意味でしょう?
遊び心がアイデアを変えていくとでも言うのでしょうか?
グーグルの社員は通常業務時間の20%を自分の好きなことに費やせ!という社命があります。そこから生まれ来る新しいクリエイティビティを期待してのこと。好きなことは、自らの力が強く発揮されるということを信じている企業だからこそ、出来ることなのでしょう。
また、原野さんは現在のカンヌでは
「広告」<「課題解決」<「発明」
となっている、その結果が今年のグランプリ作品のナイキの「Fuel band」ではないでしょうか?という論理には説得力がありました。
その前にいくつかの優れたキャンペーンを見せていただきました。
その中のひとつの「Help Remedies, "Help I Want To Save A Life"」は素晴らしいキャンペーンでした。
骨髄バンクのドナー登録をするのは
とても痛いのでは?
めんどくさいのでは?
という常識を根底から変えていったキャンペーンです。
このキットを自宅に置いておき、ひげそりなどで血が出たら綿棒にその血を含ませ事務局に送ってくださいと。 そのキットの中には「絆創膏」も入っています。そういうキットと仕組みが一体となったキャンペーンのものでした。
こうした公共的な仕事はグランプリを取ることが出来ないというルールになっているそうです。
そういうもののために「grand prix for good」という、グランプリに値するほどいいキャンペーンというものを作ったそうです。こうしたことにもアイデアが生かされそれが実行され続けているパワーに感心します。
その後、プルデンシャル生命保険の「Day One」というものを見ました。
この日は、どういう日かというとリタイアメントした日ということ。
毎日1万人の人々がリタイアメントを迎えており、それは社会人としては最後かも知れないが、新たな人生の始まりでもあるというキャンペーン。その日の写真を撮影して応募しよう、ということが行われました。 並行して、リタイアメントした人たちに対してインタビューをしたドキュメンタリーが作られました。過去の広告のようにバラ色の定年後でみんながハッピー!みたいなことは一切やりません。現実を真摯に見つめて、その中で懸命に生きている人たちがリアルにいるんだ!ということが伝わってくるものでした。これはそのCMです。
また、コロンビア共和国でゲリラ部隊となってジャングルでゲリラ活動をしている戦士たちに向けて、クリスマスは自宅に帰って家族と過ごそうというものを見せていただきました。メッセージと小さなプレゼントを透明の球体の中に入れて それをゲリラがいるジャングルの川に流すというもの。発光のLEDが入っており、夜はそれが光って幻想的な光景になりました。実際、この後、ゲリラを脱して自宅に帰った兵士たちがいるということも聞きました。
そして、今年のグランプリはナイキの「Fuel Band」。
ナイキの「Nike+」というプラットフォームは、ジョギングをするような人はご存知かと思います。毎日のランの記録が自動的にPCやスマホなどと連動して可視化していくというものです。
そこにナイキは、さらに付加価値をつけるための商品を開発しました。わたしたちが日ごろ活動しているすべての運動を「fuel」という単位にして、その達成度合いが毎日わかるというもの。
見た目は腕輪か腕時計のようで、時計の機能や万歩計の機能もついています。カロリーも計算され、まるでゲームのように達成を感じられる。日本ではまだ発売されておらず、並行輸入品で手に入れるしかありませんが、とても面白い商品だと思いました。
その商品開発と、それにまつわるプラットフォームすべてに対して贈られたのが、今年の「Titanium and Integrated Lions」でした。
【映像翻訳】上智大学に行ってきました!~語学専門職セミナー~
2012年10月23日 13:32
今年で3回目を迎える上智大での「語学専門職セミナー」。今年はタイトルも新たに「映像翻訳の世界を覗いてみよう!」となり、先週金曜日の10月19日、上智大学キャンパス内で行われました。事前予約も100名を超え、さすが語学に強い上智大の学生には関心が高いようです。アンケートでも、参加の動機は、やはり得意な語学をいかしていきたい、映画が好きだから、などの理由を挙げていただきました。
上智大学キャリアセンターの中村様に、今回司会を担当する鈴木吉昭、映像テクノアカデミア事務局長の小柳剛、上智大外国語学部OBで、現在東北新社の翻訳室に勤務する川又勝利が次々と紹介され、スタート。
まずは業界の説明として、「日本で最初の字幕映画」の話や「映像翻訳の変遷」、「さまざまなウィンドウ」について、などなど。次から次へと出てくる話を聞くことは、この業界30年間を走り抜けたのと同じとも言えます。つまり聴講した学生たちは、いっぱしの業界人になったのも同然。
続くは上智大OBの川又講師の登場。
字幕翻訳の仕方の短い説明のあと、映像を数回見せると、学生達はすぐにスクリプト片手に翻訳を開始。
見まわってみると、皆さん結構スピードが速い。さすが現役の上智大生、飲み込みが早い。
できた人先着で3名分をSST-G1(字幕専用ソフト)に載せ、川又講師が解説。一生懸命になるあまり、説明をしたのに字幕に「、」「。」がついている人もいれば、「英語を咀嚼し、自分の言葉で表現できている」と、講師からお褒めの言葉をもらえる人までいたりして、なかなかご立派!ご協力いただいた学生の方々ありがとうございました。ほんの少しですが、翻訳する楽しさや難しさを体験していただけたのではないでしょうか。
続いては川又講師の「いかにして映像翻訳者になったか」について。
学生時代に毎日1本、映画館で映画をみた話から、アカデミアでの勉強のこと、東北新社に入社して、最初の部署である字幕演出の話、そして翻訳室への異動。1人のOBが歩んできた道のりを、淡々と、そしてはっきりした言葉で、時にはユーモアも交えて語ってくれました。OBゆえに境遇や考え方などが共感でき、とても具体的に思い描けたという感想も寄せられました。
映像翻訳者が10人いれば、翻訳者へ辿り着くルートは10通りあると思います。ですが、共通しているのは「正しい学校選択」。手前味噌になりますが、ドキュメンタリーやドラマ、映画、それもWEB配信や放送用のものから劇場公開作品まで、横にも縦にも幅広く作品を抱える東北新社のような会社が運営する学校は、映像テクノアカデミアの他にはありません。学校選択は将来への成功の第一歩と言えます。川又講師はそのいい例といえるでしょう。
続いては事前に参加予定者から頂いていた質問への回答へ。「映像翻訳者になるために大学在学中からやっておくべきことは?」などという大学生らしい質問から、「どの程度までなら意訳してもいいのか」など玄人はだしの質問まで多岐に及びましたが、分野によっては小柳が答えたり、川又が答えたり。頂いていた質問に答えているうちに予定の2時間はすでに超過。大学側のご厚意で30分延長し、「学生の時に将来自分が何をやりたいのか考え、いろいろなことに挑戦してほしい」という川又OBの言葉で閉会しましたが、学生からの質問は止まず、最後は、教室を出て廊下での対応に。
終了後のアンケートでは、語学や翻訳には自信を持っている学生たちも、字数制限や、映像にあったセリフ(字幕)作りを求められる"映像翻訳"というものの難しさに、悩んだリ楽しんだりしたようです。学校説明会時などにいつも聞かれる質問「英語力はかなり必要ですか?」に、アカデミアでは「むしろ日本語力のほうが必要です」と答えていますが、それを身をもって体験してもらったようです。
毎年、大盛況の上智大での業界セミナー。1人でも多くの方の将来の参考になり、新たな映像翻訳者が生まれることを祈ります。
【映像・広告】カンヌライオンズ2012報告会 その4
2012年10月22日 12:17
続いて登壇したのは二人。川村真司(PARTY)と柳澤大輔(面白法人カヤック)。ふたりともSFC(慶応大学湘南藤沢キャンパス)の卒業生です。
川村さんはSFCを出て博報堂、BBH、アムステルダムの180を経て、NYのワイデン&ケネディに籍を置き、帰国して「PARTY」を設立。SFCの佐藤雅彦ゼミ(現:東京芸大大学院教授)の一期生でもあります。
1979年生まれだから今年33歳!若い!
柳澤さんは、1974年生まれの38歳!「面白法人カヤック」の社長です。
ソニー・ミュージックエンタテインメントを経て起業。WEBサイトの構築を中心に始め、いまはゲームなどを多く手掛けています。
柳澤さんが広告関係の仕事を始めたのは、最近のことらしい。広告がメインでない方がカンヌの審査員をするというのが、とてもカンヌらしくていいですね。
一番あたらしいことを見せ続けるための祭典としてのカンヌ。
それが純粋アートではなくマーケティングとして、コミュニケーションとして行われているものが一堂に集まる場所はそんなにありません。強いて言うならONE SHOW(カンヌ国際広告祭、クリオ賞と並ぶ「三大広告賞」のひとつ)やD&ADなどがそれにあたるのかも知れませんが、市場をここまで意識しているものは他にはないんじゃないでしょうか?
そして、今後すべてのデザインやプロダクトやアドバタイジングやPRなどが、シームレスとなり一体化していくことが予想されます。未来の行政がやらなければならないことを、先取りして始めてしまっているのがこうしたクリエイターたちなのでしょう。
「広告」として語られない日が、もう目の前に来ているような気がします。
そのためには「広告」以外のものから私たちは何かを吸収し、学び続けなければいけないんじゃないか?ということを教えられた1日でした。
この二人の担当部門は「Mobile」(2012年創設)と「Cyber」(1998年創設)です。
まずは「Mobile」の審査を行われた柳澤さんの話を聞きました。ぼそぼそと喋るのだが説得力があるので驚きます。
900本のエントリーをオンライン審査し、その後カンヌに行って、絞られた700本を審査にかけるというもの。 まだきちんと確立した部門でないので、ダッチロールしながら進行していったことが、柳澤さんの話で伝わってきました。カンヌの運営は、とにかく始めてみて続けるということが重要なのでしょう。
凄く興味を持ったのがフォード自動車の「Key free login」というもの。
Bluetoothのついたスマホが、パスワードなどの暗証番号をすべて不要にする鍵になる。Bluetoothのスマホが近づけば自動的にパスワードを入れなくても起動できるという便利ものです。
これは説明を聞いておもわず欲しいと思ったサービスでした!
「Mobile」のグランプリはコカ・コーラのキャンペーンでした。
知らない国の誰かにメールを送って、受け取った人は、コカ・コーラの設置した専用の自動販売機で受け取ることが出来るというもの。グーグルがその仕組みを提供しています。ワールドワイドブランドらしいキャンペーンでした。
そして「Cyber」で、川村さんが語っていたのが
「Craft」「Use of media」「Utility」
この三つを兼ね備えたキャンペーンが、賞を獲得できるということ。
グランプリは、スウェーデンのキャンペーン。
スウェーデン国家の公式ツイッターのアカウントから、毎週国民の誰かが国家の代わりに「つぶやく」というもの。まさに行政が行うことを、このようなアイデアでカタチにしていくキャンペーンが賞を獲得する時代になったのです。鳩山首相が就任後に「ツイッター」を始められたのが記憶によみがえってきました。
その後、モデレーターの橋本洋生さん(アサツーディ・ケイ)を交えて、川村さんと柳澤さんのトークがありました。
柳澤さんの会社だからこそ出来る「広告ビジネス」についての言葉は、多くのWEBを中心とした起業家共通の悩みでしょう。
どのようにしてビジネスにしていくのか?
旧来の広告会社が獲得している既得権を壊すべく、試行錯誤されている現実感が伝わって来ました。
【映像・広告】カンヌライオンズ2012報告会 その3
2012年10月16日 15:02
トイレ休憩をはさんで後半が始まりました。パネルディスカッションの登壇者は、
市耒健太郎(博報堂)、内田哲也(博報堂DYメディアパートナーズ)、八木義博(電通関西・東京ルーム)。
モデレーターはマッキャンエリクソンの溝口俊哉さんでした。
このパートのカテゴリーは「Outdoor Lions」(1992年創設)、「Media Lions」(1999年創設)、「Design Lions」(2008年創設)。
まずは「Outdoor」から。
といってもこのジャンル、表現も多種多彩でポスターやビルボードだけでなく、インスタレーションやプロジェクションマッピング、フラッシュモブなどなどの、すべての屋外で催されるものに関して扱われるもので、エントリーも4843作品に登りました。
ちなみにFilm部門は3600作品。
このパートで印象的だった言葉が、カンヌで評価されるものは
「人類の課題をキモチに転換するということ。」
ができているもの。このレベルにいかなければカンヌで賞を取れないということです。
ここでグランプリを獲得したのが、メルセデス・ベンツのゼロエミッションの車を扱ったキャンペーン。
ゼロエミッションということは何もない、ゼロということは目に見えないことでもあるということから、 メルセデスは「Invisible Car」というものを開発しました。
一方のサイドにLEDパネルをボディに貼り付け、逆サイドにはカメラを設置し、一方のサイドに映っているものが逆サイドのLEDに映し出される仕組みです。
そうすると、車は消えて見えなくなるという。そしてメルセデスはそれをカタチにし、実際の道路を走らせました。
「Media」では、審査員はメディアエージェンシーの経営者クラスがほとんどで、そこには明らかに、メディアパーソンという存在がいると内田さんは強調されていました。 メディアパーソンは、お金のにおいに敏感で、それはつまりビジネスチャンスをいつも狙っているという意味でもあります。
企業家や経営者の視点を持った人が、メディアのキャンペーンをどのように評価するのか?ということが語られました。
あるスポーツ新聞のキャンペーンで、そこの紙面にサッカーに関する記事がすべてなくなったら、
というものがありました。新聞はその状態で発行され、白い箇所がいくつも紙面の中にある。 紙面が記事で埋まっていることがいかに大変なことであるのかを逆照射したようなものでした。
メディアパーソンは、こうしたものにグググッと来るらしいです。
渡辺恒雄さんや、ルパートマードックさんなんかもこのグループに含まれるのでしょうか?
グランプリはロンドンで行われた「グーグル」の音声検索キャンペーン。
ロンドン市内の至るところに新機能のVoice Searchを使って検索できる発音記号めいた謎のポスターを設置。実際に、その通りにケータイに向かって発音してみると..。
「Design」は八木さんが解説。
八木さんは、実際に今年のカンヌでも受賞されており、受賞回数がめちゃくちゃ多いクリエイターの一人です。
今年も「行くぜ、東北!」のキャンペーンなどで受賞されていました。
目の前の仕事に真剣に取り組んでやりきった後は、いかに初めて見る方に分かりやすく広告のキャンペーンを再構成して見せていくのか?その作り方で受賞の機会が大きく変わってくるとおっしゃるのを聞き、大きく納得しました。
異文化の人たちが一堂に集まり、コミュニケーションをしていく際に必要なものは何か?を教えられたような気がしました。
グランプリ作品はオーストラリアの環境に関する年次報告書(アニュアルレポート)が受賞しました。
銀のホイルで包まれた袋から取り出した、特殊な印刷がされた報告書を太陽光に当てると、真っ白だった本から文字やビジュアルが浮かんでくるというもの。
そんな印刷技術があることに驚き、テクノロジーはクリエイティブを進化させるものでもある、とも納得しました。