【映像翻訳】映像翻訳科の裏メニュー②【水谷講師の連載】
2012年2月20日 12:30
今回は前回からの続きになります。□映画を訳すということ
実は映画を訳すというのは、使われている言葉の意味だけ分かればいいというわけではありません。
映画を理解するには、作品に使われている小物や時代性や文化背景なども重要です。武器や銃の名前やその違い、使われている音楽、スポーツのルール(特に日本人にはなじみの薄いアメリカンフットボール)、法律や裁判制度、車の種類、雑誌の名前、ホテルの名前、ドラマが想定されている場所の雰囲気、プロットとしての伏線の張り方など、脚本家や監督の意図を十二分に(それこそ深読みするくらいに!)読みこむ必要があります。
自分に理解できないシーンがでてきても単なる映画ファンならば、「難しい政治の駆け引きをしている」とか「白熱したスポーツのシーン」だとか、「ITやハイテクを使った裏技を駆使している」とだけ分かればいいかもしれませんが、翻訳者はそれをすべて日本語に訳さなければならないわけです。ですので雑学の広さは不可欠です。
今はインターネットで簡単に調べられますが、そのツボを押さえないと、とんでもないサイトから引用して、大恥をかくなんてこともあります。
信用できるサイト・信用できないサイトを見極める、いわゆる"メディア・リテラシー"も必要です。
この辺りの話は、もうひとつの"裏メニュー"である「総合セミナー」でも扱っていますが、それはまた別の話(That's another story.)で。
(※何の映画の台詞かは分かりますよね)
□理想の映像翻訳を模索する!
以上のようなことを、字数を考えないで(これは次のステップであるテクニックに属すると考えているため)、違和感なく日本人に伝えられる日本語で表現することを、このゼミでは目指しています。
つまり理想の映像翻訳を模索しています。
仕事となれば、字数や口合わせ、クライアントの意向、そして何よりも時間的制約で、完璧とは言い切れない翻訳となってしまうことも、ままありますが(それでも及第点はクリアしていなければならないのがプロで、その後のチェックまで完璧を追求しますが)、このゼミでは日本人が見て違和感がない、理想的な翻訳とはどういうものなのか、参加者とも相談しながら追い求めています。
むろん僕の解釈が「正解」で、「絶対」というわけではありません。もっといい「答え」があるはずです。いろいろ意見を出し合って、それを参加者全員で毎回、探し求めています。
□クライアントから見れば、できていて当然の世界!
映像翻訳に限らず、翻訳に絶対的な正解や完璧などというものは存在しません。しかし限られた時間内に、ベストを尽くした状態で仕上げなければなりません。
クライアントさんからみれば「お金を出しているのだから、最高のものであるのが当たり前、できていて当然の世界。誤訳なんてとんでもない」と考えています。熟考を重ねたうえに、紡ぎ出された日本語が求められています。
最後もサッカーのたとえで言えば、翻訳者はゴールキーパーに似ています。アジアカップ2011の川島のような"神セーブ"を連発しなければ、ほめられることはほとんどありませんし、注目もされません。
逆にケアレスミスで点を取られればボロクソに言われるのです(先日のオリンピック最終予選のシリア戦の権田のように)。
以上で水谷講師の連載は終了になります。
あたりまえのように聞こえますが、それがなかなか勉強し続けないと難しいのです。
アカデミアの良いところは、多くの講師に輪番で講義をしていただいている点です。いろんな方のやり方を知り、そこから学んで欲しいからです。
けれどこの水谷講師の『精読ゼミ』のように、じっくり向かい合い突き詰めていくゼミもあります。このゼミは、在校生・卒業生が受講可能です。